菖蒲(あやめ)
秀麗：	あら、本の間に何か…絵よね、これ？
劉輝：	あ、それは…。
秀麗：	あなたが描いたの？
劉輝：	子どもの頃にな。こんなところにあったのか。
秀麗：	よく描けてるわね。この馬。
劉輝：	…花なのだ。
秀麗：	えっ、あ、そ、そうよね、花よね。…で、何の花かしら？
劉輝：	菖蒲(あやめ)だ。
秀麗：	菖蒲？……もしかして、お兄さんを待ってた？
劉輝：	…何故、そう思う？
秀麗：	だって花言葉が…あ、子どもは花言葉なんて知らないわよね。
劉輝：	いや…知っていた。兄上が教えてくれたからな。
	（回想）
清苑：	菖蒲の花言葉は『良い便り』『信じる者の幸福』『消息』というんだ。ずっと側にはいられないけど、劉輝、私はいつだっておまえの幸せを願っているよ。
	（回想・終わり）
劉輝：	子どもの余は、この花があれば兄上が早く帰ってくる、と信じていたのだ。でも花はいつか枯れるだろう？だから絵に描いた。絵にして、ずっと持っていれば、また余の所へ来てくれると思ったのだな。
秀麗：	そうしてこの絵をずっと持っていたのね。
劉輝：	いや、しばらくしてやめてしまった。待っていても来ないし消息も分からない、花になど頼るものか、探し出してこちらから行ってやる！とな。
秀麗：	行ったの!?
劉輝：	行けたら、今頃ここにはいないのだ。
秀麗：	劉輝…今でもお兄さんを追いかけたいと思ってる？
劉輝：	ん？いや、それは──。
静蘭：	主上。お嬢様。こちらでしたか。
秀麗：	静蘭。
静蘭：	旦那様がお茶をご一緒にいかがですか、と。
秀麗：	えっ!?父様もう淹れちゃった？
静蘭：	いえ、これからのようですよ。
秀麗：	大変！早く行かなくちゃ！
劉輝：	あ、秀麗！その、さっきの答えなのだが。
秀麗：	…？
劉輝：	余は、今でも追いかけているのだと思う。男として、王として、いつか追いついて隣に立てるように…。それに、兄上にいつまでもあの頃のままだと言われたくはないからな。
静蘭：	劉輝…。
秀麗：	それが一番、お兄さんへの『良い便り』かもしれないわね。あ、そういえば昔、静蘭も菖蒲の絵描いてたことあったわよね。ね、静蘭？
静蘭：	えっ、あ、そ、そうでしたか…？
秀麗：	すっごく上手だったのよ。あとで劉輝に描いてあげたら？じゃ、私先に行くわね！
静蘭：	お嬢様──
劉輝：	う…。
静蘭：	『う』？
劉輝：	(感涙)うれしいです、兄上ぇ〜っ！
静蘭：	あー、はいはい。(独白)まったく、ちっとも変わらない。だから私は…。
	（回想）
秀麗：	せーらん、なにかいてるの？おはな？
静蘭：	菖蒲ですよ、お嬢様。
秀麗：	…おえかきしてるせーらん、やさしいおかお。
静蘭：	そうですか？…そうですね、大切な人が幸せであるようにと願っているからかもしれませんね。
2008.11.30脱稿