蝦夷菊(えぞぎく)
香鈴：	秀麗様、ちょっとよろしいですか？
秀麗：	ええ、いいわよ。何？
香鈴：	あの…秀麗様はこの花の花言葉をご存じですか？
秀麗：	蝦夷菊ね。信じる心・同感・追想…でもその花は藍色だから『私の愛はあなたよりも強い』というのもあるわよ。
香鈴：	(照れながら)そうなんですか？うわあ…。
秀麗：	なあに？その花がどうかしたの？
珠翠：	最近お城の女官達の間で流行ってるんです。文ではなく、花で思いを伝え合うっていう…。
秀麗：	あら、香鈴ってばやるじゃない。
香鈴：	ち、違います！これは、先程お遣いの方が珠翠様に、って。
秀麗：	珠翠に？
香鈴：	ええ、でも珠翠様が――。
珠翠：	香鈴、余計な口は慎みなさい。
香鈴：	す、すみません！でもこの花……。
珠翠：	あなたが気にする事ではないでしょう？
香鈴：	それはそうですけれど、でも厠(かわや)に飾るようにと言われても…。
秀麗：	厠！？
珠翠：	捨てるには忍びないでしょう？花に罪はないのですから。
秀麗：	珠翠、珠翠は相手が誰だか知っているの？なんだかずいぶん好かれているようだけど…。
珠翠：	いいえ。まったく。これっぽっちも。『ボウフラ』を『知り合い』にした覚えは、未だかつてございません。
秀麗：	知ってるのね…。
珠翠：	香鈴も、花言葉などと曖昧なものに振り回されていないで、もっと思慮深く行動なさい。
香鈴：	はい…。
秀麗：	(苦笑まじりに)あのね珠翠、実は私も珠翠に渡してほしいって頼まれた物があるのよ。ちょっと待っててね…はい。
香鈴：	うわあ、真っ青…きれいな花束ですね。
珠翠：	秀麗様、これはどなたから…？
秀麗：	父様からなの。いつも娘がお世話になっているから、そのお礼ですって。うちの父様だと、女性への贈り物に『花』を選んだってだけで合格点なのよ。だから、受け取ってもらえるとうれしいわ。
香鈴：	青い蝦夷菊にも特別な花言葉があるんですか？
秀麗：	あるわよ。『あなたを信じているけど心配』っていうの。でも父様、そういうの全然無頓着だから、意味はないと思うわ。
珠翠：	邵可様…。(感激)
秀麗：	厠の花にしてもかまわないわよ。
珠翠：	とんでもありません！
秀麗：	しゅ、珠翠…？
珠翠：	あ…失礼いたしました。その…ありがとうございます、とお伝えください。それから…これも一緒に渡していただけますか。
秀麗：	髪飾り？あら、これって…。
香鈴：	白い蝦夷菊ですね。
秀麗：	『私を信じてください』ね。ちゃんと父様に伝えておくわ。それと…いつもありがとう、珠翠。
珠翠：	秀麗様…いいえ、私の方こそ、お側にいられて幸せです。
秀麗：	これからもよろしくね。
珠翠：	はい。
岡村さん＆仙台さんゲストに合わせて書きました。 場面的には秀麗が貴妃として後宮にいた頃っぽいですが、 香鈴の性格は茶州編の頃のものと、 ちょっとちぐはぐではあったりします。 まあ、そこはそれ。さりげにスルーしていただけるとありがたいです^-^; 2008.10.19脱稿