胡蝶蘭(こちょうらん)
黎深：	…なんだ、この書翰の山は。私の机が埋もれているではないか。おい！…おい、誰かいないのか!?…ええい、また迷子になっているのかあいつは。
秀麗：	失礼いたします。叔父様、こちらの書翰の決裁をお願いします。
黎深：	しゅ、秀麗!?なぜここに…!?
秀麗：	なぜって、私は叔父様の副官ですから。
黎深：	副官…!?しかも『叔父様』…！ああ、なんていい響きなんだ…！
秀麗：	それで、叔父様、こちらの案件はどうしましょう？私には良い案が思い浮かばなくて…。
黎深：	…コホン、どれ、貸してみなさい。…ああ、これはここをこうしてこうすればいい。
秀麗：	さすが叔父様！なんて素敵なの！ぜひこの花を受け取ってください。
黎深：	胡蝶蘭だな。花言葉は確か…。
秀麗：	私、ずっと叔父様の事が――
静蘭：	お嬢様。お迎えに上がりました。
秀麗：	静蘭。
黎深：	な、なんだ貴様は!?
静蘭：	夢の時間は終わりですよ、黎深様。
黎深：	ゆ、夢だと!?
静蘭：	貧乏紅家で育った倹約の達人のお嬢様が、高価な胡蝶蘭を人に贈るわけないじゃないですか。だいたい、お嬢様がよその男にかわいく『素敵』と言うなんてありえません。
黎深：	私は秀麗の叔父だぞ！
静蘭：	それはお嬢様に名乗りを上げてから言うべきですね。
黎深：	くっ…お前、兄上や秀麗と一緒に暮らしてるからって、いい気になるなよ！
静蘭：	ちなみにお嬢様は、自分の仕事をきっちりこなす人が大好きです。そうですよね、お嬢様？
秀麗：	ええ。静蘭もだけど、黄尚書とか、悠舜様とか、絳攸様とか、もう憧れちゃう。
黎深：	悠舜はまだしも、なぜそこに仮面男と絳攸が入る!?
秀麗：	あら？私、どうして叔父様を思い浮かべなかったのかしら？
静蘭：	部屋中のこの大量の書翰のせいじゃないですか？
秀麗：	まさか、叔父様ってばお仕事をさぼって――
黎深：	そそそ、そんなことはないぞ秀麗！このくらい、私にかかればあっという間なんだ！
秀麗：	そうですよね。よかった。じゃあ私も仕事に戻ります。
黎深：	待て！君は私の副官なのだろう!?
秀麗：	副官は絳攸様ですよ、『おじさん』。行きましょ、静蘭。
黎深：	ま、待ってくれ秀麗〜っ！
	（黎深の夢・終わり）
	（紅邵可邸にて）
秀麗：	…ねえ、静蘭。この送り主不明の胡蝶蘭、どう思う？
静蘭：	花言葉は『あなたを愛します』ですね。もしくは『幸福がとんでくる』とか。
秀麗：	この間、絳攸様と歩いてたら、どこからかミカンが飛んできたわ。ミカンって幸福？
静蘭：	(小声で)私には腐った卵が飛んできた…などとは言わない方がいいな。
秀麗：	幸福っていえば、吏部で年に一度あるかないかの奇跡があったらしいわよ。でもこの間珀明に会ったら、なんだかいろいろと壊れていたのよね…。
静蘭：	胡蝶蘭に関しては、旦那様が大丈夫とおっしゃっていましたから、心配ないでしょう。奇妙な出来事も、そのうち収まりますよ。
秀麗：	静蘭が言うなら、きっとそうね。ね、静蘭。
静蘭：	はい。
秀麗：	お花。きれいね。
静蘭：	贈り主もその一言で報われていますよ。きっと。
黎深役・真殿さんがゲストということで作ってみました。 …むつかしいですねぇ(^-^;) 秀麗が冗官になって解雇宣告をされた時、黎深が絳攸に 「秀麗が副官になって『叔父様、この案件はどうしましょう』などというのも悪くはない」 みたいなことを言っていたのがモトネタです。 2008.6.30脱稿 ご当人が演じてくださったミニドラマは、↓から 第４６回の１６分あたりからになります。