百日草(ひゃくにちそう)
秀麗：	…ねえ静蘭、庭の方から変な音聞こえない？もしかして…笛？あ、鳥が落ちた！まさか…。
静蘭：	すみませんお嬢様、ちょっと用を思い出しましたので、私はこれで。
秀麗：	えっ、ちょっと静蘭!?
龍蓮：	やあ、心の友その一。
秀麗：	…龍蓮。人の家を訪ねる時は『ごめんください』って言うものよ。そして窓からじゃなくて、玄関から。これ基本。
龍蓮：	時は金なり、光陰矢のごとし。しかし心の友たっての願いとあらば、改めて訪う(=おとなう)ことに何の支障もない。
秀麗：	いいわよもう…。まあ、あいかわらずみたいで、かえって安心したわ。
龍蓮：	君もあいかわらず派手派手しい場所で汲々と目先の幸福にとらわれている様子。
秀麗：	あんたみたいに存在だけで彩八仙も霞むくらいの伝説作れる人間じゃないのよ私は。
龍蓮：	仙人修行に出るならば、いつでもつきあおう。
秀麗：	あいにくと私は現状に満足しているの。で？私に何か用があったんでしょう？
龍蓮：	うむ。これを届けに来たのだ。
秀麗：	百日草？
龍蓮：	旅の途中で見かけたのだ。『別れた友を思う』という意味を持つのだと聞いた。これぞまさしく私の同志。
秀麗：	…って、今目の前にいる相手に言われてもね。
龍蓮：	『遠くの友を思う』というのも、我が心にぴったりだ。
秀麗：	…めちゃくちゃ近くにいるんですけど。
龍蓮：	心の友その二からも、よろしく伝えてくれと頼まれた。
秀麗：	影月くんに会ったの!?
龍蓮：	影月も我が心の友だ。よってこの花を届けるに値する。
秀麗：	そう…。茶州のみんなは元気かしら…。
龍蓮：	心の友が所望するなら、かの地で披露した新曲も交えていくらでも──
秀麗：	大丈夫聞かなくてもすっごくよく分かるから！
龍蓮：	そうか。では、聞きたくなったらいつでも言ってくれ。
秀麗：	ハハ…ねえ、お花、あなたの頭にまだ載ってるけど、それは藍将軍の分？
龍蓮：	愚兄が友とは笑止千万。これは、心の友その三のものだ。
秀麗：	珀明くんのところにも行くの？
龍蓮：	もちろんだ。珀明もまた我が心の友。
秀麗：	ああそう…。まあ、せめて珀明くんのところには入口から伺いなさい。ちゃんと『ごめんください』って言うのよ。それから…ありがとう。うれしかったわ。
龍蓮：	では私はこれで失礼する。
秀麗：	…(見送りながら)…って、あ、やだ、なんでわざわざ塀の壊れたところから出ていくのよ。もう、ご近所に見られてないといいけど。
静蘭：	…すぐに修理します。
秀麗：	静蘭…。
静蘭：	コホン…ヒャクニチソウの花言葉には『幸福』というのもあるんですよ。龍蓮君はさしずめ、幸せを運ぶ青い鳥ですね。
秀麗：	鳴き声は静蘭が逃げ出すくらい凄まじいけどね。
静蘭：	お嬢様…。
秀麗：	でも、なんだかすっきりしたわ。『友を思う』、か…思うのも思われるのも、いいものね。
静蘭：	そうですね。
秀麗：	さーて、お仕事お仕事。がんばろっと。
【百日草　豆知識】 別名・ジニア。園芸店ではこっちの名で売られているかも。 暑い日差しの中でも丈夫な一年草。 2008.4.20脱稿