皐月躑躅(さつきつつじ)
劉輝：	おや…あそこにいるのは、秀麗ではないか？あんなところで、いったい何をしておるのだ。
静蘭：	花を、見ているようですね。
劉輝：	見ている、というより、睨んでいないか？
静蘭：	そうですね。
劉輝：	呼んでみるか。おーい、しゅ──
秀麗：	「貧乏暇なし」？上等じゃないの！絶対負けませんからね！よーしっ、がんばるわよー！
劉輝：	な……なっ……!?
静蘭：	行ってしまいましたね。
劉輝：	なんだったのだ、あれは!?
静蘭：	ひょっとして。
劉輝：	心当たりがあるのか？
静蘭：	あの花、皐月躑躅でしょう。花言葉は『節制』ですから、気合いを入れていたのかもしれません。昨夜もすごい勢いで、そろばん弾いていましたし。
劉輝：	……そなたの家は、そんっなに貧乏だったのか？
静蘭：	このところ、屋根の修理や壁の修理、その他諸々で出費がかさみましたからねえ。
劉輝：	給金が足りぬのか？すまぬ、余がふがいないばっかりに、十分に出してやれなくて。
静蘭：	でも、それだけではないようですね。きっとまた、何か言われたのでしょう。
劉輝：	誰にだ？
静蘭：	旦那様曰く、「一生ものの好敵手か天敵」だそうですよ。
秀麗：	(遠くからやってくる)劉輝、静蘭！こんなところにいたのね！
劉輝：	秀麗、困ったことがあったらいつでも相談してくれ！余のお小遣いでは秀麗に贅沢をさせてやれぬが、できることならなんでもするからな！
秀麗：	またいきなり何わけのわからないこと言ってるのよ、あんたは!?
静蘭：	お嬢様、何かご用ですか？
秀麗：	あのね、お饅頭作りすぎちゃったから持ってきたの。よかったら食べて。
劉輝：	貧乏なのに、余のためにわざわざ作ってきてくれたのか。
秀麗：	あんたのために作ったんじゃないし、その言い草もなんか腹立たしいんだけど。
静蘭：	でも先ほど、サツキツツジに向かって叫んでいらっしゃいましたよね。
秀麗：	やだ、聞いてたの？オ、オホホ…気にしないで。やりくりは主婦の腕の見せ所よ！
静蘭：	家計のことだけではないのでは？
秀麗：	っ……かなわないわね。…そうね、時間も、もっと上手に使えればいいのに、って思ったわ。
劉輝：	仕事が多いのか？
秀麗：	清雅はもっとたくさん仕事をしているわ。だから、忙しいんじゃなくて、私の要領が悪いのよ。時間をうまく使えばできるはずなの！貧乏は関係ないのよ！フッ、絶対「忙しい」なんて言ってやるもんですか！
劉輝：	だ…だったら秀麗、ここへ来る時間を、せ、節約…しても、よかったのだぞ？
秀麗：	無理して言ってくれてありがと、劉輝。でも、適度に息抜きしたほうが、かえって能率も上がるのよ。
静蘭：	タンタン君ですか。
秀麗：	ええ、よく分かったわね。じゃ、私、もう行くわね。お饅頭、食べてね。
静蘭：	頑張ってくださいね。
劉輝：	…(秀麗を見送りながら)……静蘭、余は秀麗のために、何ができるだろう。
静蘭：	そうですね、ではこのお饅頭をおいしくいただいてください。味は保証しますよ。他は削っても、食材に関しては良い物を選ぶお嬢様ですから。
劉輝：	そうか…では静蘭、一緒に食べよう。
静蘭：	はい。
2008.1.26脱稿