椿(つばき)
劉輝：	…あ。
秀麗：	え？
劉輝：	落ちた。
秀麗：	何が？
劉輝：	あ……いや、あそこの椿の花が今、まるごと落ちたのだ。ほら、下に落ちているだろう？
秀麗：	ああ、あれね。
劉輝：	なんだか切ないな。まだ綺麗に咲いているのに、枝から落ちてしまって…もっと皆と一緒にいたかっただろうにな。
静蘭：	そういえば昔、落ちた椿の花を見て「かわいそうだ」と泣いていた子供がいましたね。
劉輝：	ぐ……そ、それは昔の話で──
秀麗：	あなたも泣いたの!?
劉輝：	いい今は泣いていないぞっ！
秀麗：	あら、いいんじゃない？私も子供の頃、そう思ったことあるもの。
劉輝：	秀麗も？
秀麗：	でも、母様が言ったのよね。椿は花を落として、また新しい花を咲かせる。咲かせてまた落とす。そうして枝だけでなく、大地も花いっぱいにしようとしているんだ、って。
静蘭：	奥様が、お庭に落ちた椿の花を糸でつないで、首飾りを作ってくださいましたね。
秀麗：	みんなで赤い椿の首飾りを首にかけて遊んだのよね。私と静蘭と父様と、もちろん母様もいて…だから椿っていうと、いい思い出の方が大きいわ。
劉輝：	…秀麗の母上は、すごいな。
秀麗：	そうね。呆れるほど前向きで、なんていうか、豪快な人だったわね。
劉輝：	なるほど、秀麗のような方だったのだな。
秀麗：	私はあんなに美人じゃないけどね。
静蘭：	『美人』という形容はともかく、お嬢様も十分魅力的ですよ。
劉輝：	秀麗の母上は、そんなに美人だったのか。
静蘭：	それはもう。
劉輝：	…まあ、邵可の血もあるからな。
秀麗：	……二人とも、さりげなく失礼じゃない？
静蘭：	コホン…お嬢様はちゃんと、旦那様と奥様それぞれの良いところを受け継いでいらっしゃいますよ。そうですね…奥様が椿の首飾りを、お嬢様の首にかけられたように。
劉輝：	花言葉は『控えめな美徳』と『気どらない優美さ』か…うむ、確かにぴったりだ。そうだ、あの椿の花がたくさん落ちたら、首飾りを作ろう。そうしたら秀麗、その首にかけてもよいか？
秀麗：	あなた、作り方知ってるの？
劉輝：	っ……静蘭〜っ。
静蘭：	はいはい、お教えしますよ。
劉輝：	余は刺繍は得意だから、針と糸は大丈夫なのだ。だから、秀麗の母上には及ばぬだろうが、とびきり綺麗なのを作るぞ。
秀麗：	しょうがないわね…じゃあ、楽しみにしているわ。
【椿の豆知識】 椿と山茶花(さざんか)の違い。 椿は、花がまるごと落下します。 山茶花は、花びらが散っていきます。 そうなると近所はほとんど山茶花になってしまうんだけど。 …本当かなあ。 2007.12.9脱稿