白粉花(おしろいばな)
秀麗：	わあ…ね、見て、あの角のオシロイバナ。ずいぶんたくさん咲いているわね。
静蘭：	そろそろ夕飯時ですからね。
劉輝：	…夕飯の時間とオシロイバナに、何か関係があるのか？
秀麗：	オシロイバナの咲く時間って夕方でしょう？だから、そろそろご飯の支度をしなきゃっていう時間の目安になるのよ。
劉輝：	なるほど、便利な花なのだな。
秀麗：	小さい頃、あの花でよく遊んだわよね。静蘭がオシロイバナの花で落下傘を作ってくれたの、あれ、すごく好きだった。
静蘭：	お嬢様と奥様が「お化粧ごっこ」と言って種の中の白い粉を顔中に塗っていらした時は、旦那様と二人でずいぶんと笑わせていただきました。
秀麗：	そんなこともあったわね。
劉輝：	いいなあ、秀麗は。余も兄上とそんな遊びをしたかったな。
静蘭：	…(咳払い)…。
秀麗：	ああ、大好きだったっていう２番目のお兄さん？知らなかったんじゃない？これって庶民の遊びだから。
劉輝：	そうか…知らなかったのか…。
静蘭：	(「知らなかった」と言われたのを心外だというように)王宮にはオシロイバナはなかったから…(はたと気づいてごまかす)…では、ありませんか？
秀麗：	ないの？
劉輝：	言われてみれば、なかったような……。
秀麗：	じゃあ、仕方ないじゃない。
劉輝：	だったら、今から植えるのだ！
静蘭：	でもオシロイバナの花言葉は「小心」と「臆病」ですからね。植えても、宋太傅あたりに剣の一閃で薙ぎ払われてしまいそうですよね。ついでに「こんな女々しい花を植えるんじゃない！」とか言って、ゲンコツの一つもくれるかもしれませんよ。
劉輝：	あ、ありえる……。あ、想像したら頭がズキズキしてきた。
秀麗：	(苦笑して)…まあ、欲しいならうちの庭にもたくさん咲いてるから、持っていけば？
劉輝：	秀麗がくれるなら──
静蘭：	ああ、「私は恋を疑う」という花言葉もありましたっけ。
劉輝：	絶対いらない！秀麗は余の思いを疑うのか!?
秀麗：	無理にもらえなんて言ってないでしょう！
劉輝：	まったく…見た目はこんなに可憐なのに、なんて危ない花なんだ。
秀麗：	気にするあんたの方が危ないわよ…。だいたいねえ、「小心」だの「臆病」だの「恋を疑う」だの、自分の心にやましいところがあるから気になるんじゃないの？
劉輝：	ぐっ、そ、そんなことない！静蘭、秀麗がいじめるのだ〜(泣く)。
静蘭：	はいはい、いくら図星だったからといって、いちいち泣かないでください。ほら、そこのオシロイバナも「小心者〜」「臆病者〜」と笑っていますよ。
劉輝：	うわぁんっ、静蘭もオシロイバナもイジワルなのだ〜っ。
秀麗：	ちょっと劉輝!?…もう…走って行っちゃったけど、大丈夫かしら。
静蘭：	大丈夫でしょう。あれで腕はたちますし、邸(やしき)はすぐそこですから。
秀麗：	…静蘭ってば、オシロイバナの花言葉には「あなたを思う」っていうのもあるって、教えてあげれば良かったのに。
静蘭：	お嬢様こそ。
秀麗：	フフ、そうね(笑)………ね、帰ったら久しぶりに、オシロイバナで遊んでみない？
静蘭：	いいですよ。懐かしいですね。
秀麗：	静蘭、劉輝に落下傘、作ってあげてね。きっと喜ぶわ。
静蘭：	そうですね……そうします。
（マメ知識その１） 英語ではFour o'clock(４時頃咲くから) 中国では洗澡花(風呂に入る時間から)、煮飯(※)花(夕飯の時間から) と呼ばれています。 （マメ知識その２） 花言葉「臆病」「小心」は、日が落ちて暗くなる頃に咲くところから 「恋を疑う」は、日によって違う色の花が咲くところから、つけられたそうです 2007.9.17脱稿