桜草(さくらそう)
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| 秀麗： |
すごい…桜草がこんなにたくさん咲いて。府庫の近くにこんな場所があるなんて知らなかったわ。…あら？ |
| 庭師： |
これは、可愛らしいお客人ですな。 |
| 秀麗： |
こんにちは。‥‥素晴らしいですね。この一角だけが、まるで海のよう。ここまで咲かせるのは、さぞ大変だったでしょう。 |
| 庭師： |
いえいえ。特には何もしとりませんよ。これのほとんどは、こぼれ種で増えたものですからな。 |
| 秀麗： |
へえ…。 |
| 庭師： |
これらは毎年、勝手に種をばらまいて、芽を出し、次の春には花を咲かせます。今や花壇の敷居を越えて、こんなありさまですわ。 |
| 秀麗： |
強いのね。一つひとつの花は、こんなにも小さくて今にもしおれてしまいそうなのに。…なんだか、彩雲国の人々のよう。 |
| 庭師： |
ほう？ |
| 秀麗： |
一人ひとりの存在は小さくても、誰もが自由に生きたいと、未来に“希望”を持っているはずだから。そしてきっと、そんなふうに生きられる人が多ければ多いほど、国は栄えるのだわ。 |
| 庭師： |
おやまあ、これはこれは(笑)。同じようなことを、陛下もおっしゃっておられましたなあ。 |
| 秀麗： |
りゅ‥‥主上が？ |
| 庭師： |
はい。未来へと“希望”を持ち、自由に生きぬこうとするこのたくましさは、この国の民と同じだ、と。どこに生えようと増えるままにしておくようにとおっしゃったのも、陛下です。ただ、枯れぬよう、良い土と十分な水は与えてやってくれと。だから儂がこいつらにしてやるのは、そんなものなんですよ。 |
| 秀麗： |
『そんなもの』って──。 |
| 劉輝： |
(遠くから)秀麗…！ |
| 秀麗： |
え………!? |
| 庭師： |
ああ、いかんいかん、すっかり長居をしてしまったようだ。では儂はこれで。 |
| 秀麗： |
え、あの…。 |
| 劉輝： |
秀麗、このようなところにいたのか。探したぞ。 |
| 秀麗： |
劉輝…。 |
| 劉輝： |
………あ、いやっ、ちゃんと仕事はしているぞっ。今は、ええと…そう、お茶の時間なのだ。本当だぞ。嘘だと思うなら楸瑛と?攸に聞いてみるがいい。 |
| 秀麗： |
…嘘だなんて、言ってないわ(笑)。 |
| 劉輝： |
そ、そうか……なんだ、桜草を見ていたのか？ |
| 秀麗： |
ええ。桜草の花言葉が“希望”というのもうなずけるわね。見ていて心が晴れやかになるわ。 |
| 劉輝： |
そうか。それはよかった。余も心が晴れやかな気分だ…秀麗の笑顔が見れて。 |
| 秀麗： |
劉輝？……まあ、いいわ。戻りましょう。お茶を入れてあげる。どうせ……ううん、今日はお饅頭もあるのよ。好きでしょう？…あら、どうしたの？ |
| 劉輝： |
いや………なんだか、今日の秀麗は、いつもより、優しい…気がする。 |
| 秀麗： |
ええ？それじゃあいつもは、私がいじわるみたいじゃない。 |
| 劉輝： |
そっ、そんなことはっ…いじわるというか、冷たいというか…。 |
| 秀麗： |
なんですって？ |
| 劉輝： |
…なんでもないです。 |
| 秀麗： |
まあ…そうね、彩雲国という花壇の『庭師』さんに敬意を表して、といったところかしら。 |
| 劉輝： |
『庭師』？……何だ？何のことを言っておるのだ？ |
| 秀麗： |
いいの、こっちの話。お仕事おつかれさま、劉輝。大変だろうけれど、がんばってね。 |
| 劉輝： |
…なんだかよく分からないが、秀麗にそう言ってもらえるのはうれしい。毎日言ってくれると、もっとうれしい。 |
| 秀麗： |
甘ったれない。(甘めに優しく) |